人間とは、かくもヘンテコな生きものなり
以前から気になっていた、行動経済学の本「ヘンテコノミクス」を購入しました。
町内唯一のTSUTAYAが近日閉店すると聞いたのがきっかけ。
Kindle版がなかったので地元の本屋に在庫あると本当に助かる。寂しくなりそう。
人は、なぜそれを買うのか。
安いから、質がいいから。
そんなまっとうな理由だけで、人は行動しない。
そこには、より人間的で、深い原理が横たわっている。
この本には、その原理が描かれている。
漫画という娯楽の形を借りながら。
以上がこの本の1ページ目に書かれる前置きである。
著者は佐藤雅彦と菅俊一とある。ご存じない方も多いはずだ。
大学教授の書いた本・・・なんだか難しそうだな、と身構えてしまうかもしれない。
かつて慶應義塾大学に存在した「佐藤雅彦研究室」、そこの室長と研究生、それがこの二人である。
大人から子供までを魅了するNHKのピタゴラスイッチ、この番組を象徴する「ピタゴラ装置」の企画・制作を手掛けたと言えば、その存在感が伝わるでしょうか。
あるいは、我々の世代ではゲーム「I.Q」の原案者と言われて懐かしむ人もいるかもしれない。
そして、絵を手掛けるのは高橋秀明という広告代理店のアートディレクター。
佐藤雅彦氏と共に、NECのキャンペーンCMである「バザールでござーる」を手掛けた人である。
ここまでの紹介で「何やら面白そうな本だ」と思わせるのに十分なのですが
この本が秀逸なのは、ここからである。
多くの学者が経済学を学び、発展させ、理論を体系化してきたにも関わらず
現実の経済と大きく乖離していると言われ続けてきた。
著名な経済学者のベストセラーでは、億万長者になることは叶わず
強力なシンクタンクを擁するはずの政府も、経済成長を実現できない。
一体、経済学の(主に短期的な視野において)どこに問題があるのかを長らく誰も説明できなかったのだが
この「行動経済学」こそが、その現実との乖離、積年の謎を解き明かしたといえる。
有体に言えば、100円と90円の商品では、人は必ず90円のほうを買うと決めつけていたのが従来の経済学であり
人は特定の条件下において100円の商品を選ぶ、ということを発見したのが行動経済学である。
超乱暴にまとめるとこんな感じでしょうか。
人間の経済行動を、心理学の分野から解き明かしたってな具合です。
●本書で紹介されている法則
ここからが本題で、行動経済学は色々なことに応用が利く。
経営はもちろん、教育やコミュニケーションに至るまで。
もちろん地域の活性化においても例外ではないと思う。
たとえば地域の特産品として開発した新商品の売れ行きが芳しくないとする。
宣伝不足か料金設定か、はたまた質そのものの問題か。
商品は悪くないのに売れない場合の原因として「顧客の中で市民権を得ていない」というものもある。
この本の中では、自宅で手軽に焼きたてのパンを味わえるホームベーカリーという新商品が
中々市民権を得られず、購入に踏み切れない顧客に対して
さらに機能を付け加えて値段の高い、上位機種を発表することで問題を解消した。
すなわち「買うか買わないか」という選択から、あえて本命の商品から目をそらさせることによって
「どちらを買うか」という選択にすり替えたのである。
これを「おとり効果」として紹介している。
さらには「極端回避性」というものもある。
1500円のAランチと2000円のBランチとでは、人は前者を選んでしまいがちだが
そこに3000円のCランチを新メニューとして登場させることで
「人はついつい真ん中を選んでしまう」という性質を利用し、客単価を上げる。
地域の活性化とは、ただただお金を稼ぐことだろうか。
個人的には否定的な立場である。
しかし、経済によって地域を持続可能な状態にできるのなら
お金を払う人が気持よく経済行動をすることができるのなら
わずかな「おまじない」の効果しかなくとも、そこに希望を見出してしまうのです。
入口と出口がずいぶん違う気がするが、まぁいいや。「親近効果」というやつだ。
おまけ。表紙裏で登場人物の名前を確認できる。
こういう小ネタ大好き。